年賀状が6枚戻ってきた

郵便受けをのぞいてびっくりした。

仙台から、熊本から、埼玉から、続々と年賀状が戻ってきている。住所に尋ねあたらないらしい。そんなにみんなそろって引っ越したのか。全然教えてくれないじゃないか。これがニューノーマルってやつ?と思ったら僕がおととしの住所録で年賀状を作っていただけだった。ひどい。

6枚の年賀状を並べて肩を落とす。いっそもう1枚戻ってきて、7枚揃ってほしい。その瞬間辺りは暗くなり、 7枚の年賀状が光り輝いたかと思うと、龍が立ち上るのだ。ひとつだけ願いを叶えるという龍に、年賀状を正しい住所に送り届けてほしいと願うんだ。「どれを?」龍が聞く。どれを…? マジか1枚しか送ってくれないのか。願いはひとつだけだからな。ちょっと待ってね、誰にしようか、遠くの人に送ったほうがいいのかな。いやこの人のほうがしばらく会ってないから…。

「ちょっと待ったぞ」

願いを叶えた龍が消える。7枚の年賀状が残される。僕の筆跡で「お元気ですか?」と書いてある。全く元気ではない。あけましておめでとうが届かない。住所録を最新にしてくださいってお願いすればよかった。

4回と6回

目薬に追われた年末年始だった。

2020年12月の年末進行真っただ中のこと。なんだか目を開けるのがツラくなって、年末ギリギリに眼科に駆け込んだら、ドライアイと診断された。「乾いた目(ドライアイ)」となんだかジョジョのスタンドっぽい。それになったという。

症状と治療について眼科医は丁寧に説明してくれて(そのせいで待合室はいつもごった返しているのだけど)、目薬を2つ処方してくれた。1つはヒアルロン酸が入っているといい、もう1つは元々胃薬だったのだけど胃の粘膜に効くなら目にも効くのではと目薬になったやつ、と教えてくれた。肌に良いやつと、胃に良いやつを目にさすことになる。そんなことがあるのか。

で、前者は1日6回、後者は1日4回さしてくださいと言われた。

これがどうしても気になる。1日にだいたい16~18時間くらい活動すると考えれば、前者は3時間ごとに、後者は4時間ごとにさせばいいだろう。スタートを7時とするとこんなスケジュールだ。

①7時、10時、13時、16時、19時、22時
②7時、11時、15時、19時

忙しすぎる。お昼どきはずっと目薬してないかこれは。

しかも年末年始で規則正しい生活などできやしないのだ。深夜まで面白いテレビはあるし、正月はお昼からお酒を飲んじゃうし。人のいないタイミングを計って近所に初詣にも行ったり、息子にスマブラでボコボコにされたりするうちに、さっき①の目薬さしたっけ?ってなる。

もうだいたい勘でやるしかない。その結果、6日間処方された目薬は5日経ってもまだ2日分余っている。やっちゃってる。やっちゃってるなこれは。あーあ。

「一年の計は元旦にあり」というけど、こんなイレギュラーな状態で「一年の計」もなにもあったものではない。でも年は明ける。キャラバンは進む。乾いた目を潤ませて跡を追う。みなさまあけましておめでとうございます。

イギリスの高さの単位は「2階建てバス」

今朝のニュースで、イギリスのダービーの話題をやっていた。あのディープインパクトの子供が走るらしい。へぇーと見ていたら競馬場の紹介になり、現地の人が「このコースは坂がきつくて、2階建てバス10個分は上るんだ」と言っていた。

2階建てバス10個分。

ピンとこない。調べてみればダービーが行われるエプソム競馬場の高低差は約40m。つまり2階建てバスは14mの高さらしい。

さすがロンドンっ子、高さの単位は「2階建てバス」なんだと感心したのだけど、そういえば日本の「東京ドーム○杯分」だって海外には通じないだろう。それぞれの国の「なんとか個分」があるんだと思う。

  • モアイ像10体分の高さ(チリ)
  • ベンツ10台分の税金(ドイツ)
  • サンバ10回分の消費カロリー(ブラジル)
  • ヒツジ10頭分の食費(ニュージーランド
  • 自由の女神10杯分の量(アメリカ)

自由の女神の容積、全然わからない。

スーツを着てもタヌキが化けている気がする

久しぶりにスーツを着たら軽いパニックになった。

スーツ、ここ半年くらい着てなかったんですよ。以前は企業に取材するときはスーツにネクタイ姿で行ったりしてたんですけど、ジャケットが導入されてからはこいつは楽だとジャケットばっかりになってしまった。ビジネスカジュアルにどっぷり浸かってしまった。

迎えた今日。スーツ着用が義務づけられた用事があり、ワイシャツ、ネクタイ、スーツと久しぶりに袖を通したら……あれ……これだっけ……これで合ってるんだっけ……とものすごく不安になった。ネクタイは結べるのだけど、ワイシャツと上着の組合せに違和感をおぼえてしまう。いつも着てたやつこれじゃなかったっけ、とクローゼットに何着かあるやつに着替えてみても違和感が消えない。

なんとか「これだったかも」と思える格好になるも、今度は靴がどうだったか忘れている。このスーツにはこっちを履いてたっけ……それともこっちだったっけ……。

頭が、体が、スーツを忘れている。会社員時代は毎日着てたのに。10年以上そういう習慣だったのに。そうかー。忘れるかー。そういうものかー。

家を出て、電車に乗る。他にもスーツの人がいる。それに混じってスーツの僕がいる。なんだか他の人と違うような気もする。都会に出てきたタヌキがうまく化けられているか気にしているような、妙な気持ちになる。タヌキも大変だな。

30分もするとその違和感はすっかり消えてしまった。それはそれで不思議で、誰にも何にも言われないと「これで合ってた」となるらしい。違和感、ちょろ過ぎやしないか。

なにはともあれ、スーツの用事は終わった。その時に撮った動画がこれだった。

スーツが習慣じゃなくなった以上、スーツ着用はもはや「サラリーマンのコスプレ」でしかないのかもしれない。

Pepperがうなだれるのには必然性がある

Pepperがうなだれているじゃないですか。

閉店後のショーウィンドウの奥で、家電量販店の片隅で、携帯ショップの店頭で、電源が切れたPepperがうなだれているじゃないですか。

向かいのホーム、路地裏の角、こんなとこにはいないんだけども、うなだれている姿は脳裏に残ってるじゃないですか。白い頭(こうべ)を垂れ、腕をだらんと垂らし、なんならちょっと猫背になっている気もする、電源が切れたPepper

でもあれ、よく考えてみたら、電源オフの時にわざわざうなだれるように設計してあるんですよね。「うなだれる姿勢」になって終わるようにしてある。あぁやってうなだれているから「あ、いま話しかけちゃダメなんだな」「機能を停止しているんだな」って一発でわかる。

あれが直立不動のまま機能停止していたらどうなっただろう。

白い後ろ姿を見かけて、あ、Pepperだと気づく。前に回り込んでみると、目に生気が宿っておらず、ピクリとも動かない。機能停止という発想に至る前に「死」の文字が浮かぶ。

うなだれていれば目がどうなっているかもわからない。なんならちょっと居眠りしているようにも見える。人の形をしたロボットは、動かない間も人を踏襲するのだなと思う。